画業40周年を記念した初の原画展「Kの系譜」開催記念!真船一雄インタビュー
1988年に連載開始された「スーパードクターK」から始まり、「Doctor K」「K2」と描き継がれてきた「スーパードクターK」シリーズ。野獣の肉体に天才の頭脳、神技のメスを持つ男・Kの活躍は、36年以上の長きに渡り、読者を常に魅了し続けてきた。
そんな「スーパードクターK」シリーズの作者である
取材・文 / 前田久
「また会えたね! もう1回、みなさんにお披露目できるんだって!」
──原画展の開催、おめでとうございます。まずは今の率直なお気持ちをお聞きしてもよろしいでしょうか。
原画展を開けるような作家さんというのはごく一部で、僕なんかにはそういう縁はないんだろうなとずっと思っていたんです。ですから、こうして開いていただけるのはとても光栄で、大変うれしく思っております。
──ちなみに普段、原画はどのような形で保管されてらっしゃるんでしょう? 40年分ともなりますとかなりの量ですよね。
普通に仕事場の戸棚に、スコスコっと袋に入れて差してある感じです(笑)。原稿が返却されてくる順番がまちまちだったこともあって、袋の中にどの原画が入っているのかすらわからない状態で。だから今回、原画展を開催していただくにあたって、1つひとつひとつ袋を開けて、どれにどの絵が入っているのか確認する必要がありました。1日くらいで終わるかなと思ったら、3日かかってしまいましたね(笑)。
──そうして改めて過去の原稿をお手に取られてみて、何か感じるものはありましたか?
マンガの原稿って、一度世に出たら、大概のものはもう二度と日の当たるところに出ることはない。だから、特に古いものをひっぱり出したときには、「また会えたね! お前、もう1回、皆さんにお披露目できるんだって!」と、ちょっと懐かしいような、うれしいような感じがしましたね。そして当然、こっ恥ずかしい感じもありました(笑)。
──アナログで描かれた生原稿を見るのは初めての方も来場者には多いかもしれません。先生が注目してほしいポイントはどこでしょうか?
断ち切り線という、「多分ここまでしか印刷されないよ」というところを超えたサイズまで、きちんと大きく絵を描いているところでしょうか。僕のマンガの師匠は「おやこ刑事」「バツ&テリー」の大島やすいち先生なんですが、とにかく原稿を大切にされる方なんですね。高校を卒業してすぐにアシスタントに入って、使う道具から何から、原稿を描くときのいろいろなことを教えていただいたんですが、先生は「できればホワイト(修正)のない原稿が一番いい」というスタンスでおられた。そんな薫陶を暗にずっと受けていたので、自分の原稿でもやはり、きれいなところはきれいにしたいし、ちゃんと印刷されないところであってもきっちり描ききりたい。そんな先生に教わったスタンスでずっとやってきたからこそ、初期のものなんて拙い絵で、非常に恥ずかしいんですけども、絵のうまさや下手さ、未熟さであるとか、そういうところはあっても、自信を持ってこうしてお出しすることはできるんです。「どれもそのときの自分のベストです」と。それを40年続けてこられたことに対する、「僕はここまでやれました!」という気持ちもありますね、今は。
デビュー当時からずっと描き方は変わってない
──先生は下描きからペン入れ、仕上げまで完全アナログ作業ということで、使われている道具も気になります。愛用のペン先などはあるのでしょうか?
ずっとゼブラのGペンを使っていたんですが、1年くらい前からゼブラのチタンGペンプロに切り替えました。僕の描き方が変わったのか、普通のGペンだと柔らかく感じるようになってしまったんです。チタンだと昔のゼブラのGペンの感じが出せるんですよね。少々、高いんですが(笑)。
──丸ペンなどはお使いにならず?
はい。太い線も細い線も全部Gペンなら描けるので、ペン先をいろいろ使い分けることは仕事を始めてから一度もしてないです。
──ペン入れのインクは何をお使いですか?
墨の華という普通の文房具屋さんで売ってる墨汁です。はやさかゆうさんという先輩のマンガ家から、「開明墨汁よりも乾きが早いよ」というアドバイスを受けまして。いっぱい原稿を描くには、ちょっとでも乾きが早いほうがいいと教わったので、それ以来ずっと使っています。
──マンガといえば開明墨汁な印象があったので驚きました。
開明墨汁のほうがベタはきれいなんですけどね。墨の華は少し薄く出るので、ベタ塗りをしたときにムラがはっきり出てしまう。だからベタを塗るアシスタントさんには開明で塗ってもらっています。
──ほかに原稿執筆に必須な道具は?
特別なものは何もないと思いますね。下描き用のシャーペンも普通の0.5ミリのものに2Bの芯を入れているだけですし、消しゴムも普通のMONOです。枠線を切るときに三角定規をいろいろ使うんですけど、それも中学生のときの技術家庭科で製図をやるために買った三角形の定規をずっと使っています。
──つまり、基本的にはデビューからずっと描き方は変わってない。
そうなんです。僕はそれが好きだからいいんですけど、苦労してるのはアシスタントさんたちですね。僕の仕事が休みのときにはほかの人の現場に入っていて、そこではもうデジタルに対応してるんです。でも僕はデジタルにする気がないから、付き合ってくれている形なんですよね。こうして原画展で原画の現物をお出しできるのは、アシスタントの皆さんががんばってくれたおかげでもあるので、今回のことをきっかけに、改めて感謝の気持ちを伝えました。